⑪  日本型経営スタイルの見直し

 


2016/08/01

1. 日本型経営スタイルの見直し

 バブル崩壊まで日本人は脇目も振らず“頑張り精神”で働いた。そして1980年代にはジャパン・アズ・ナンバーワンといわれる経済大国となった。この日本人の頑張り精神は、年功序列・終身雇用制度に守られた社員が全員一丸となって頑張るのが特徴である。しかしこの日本的な頑張り精神は次第に通用しなくなってきている。

 私のサラリーマン生活を振り返ると、若い時は頑張り精神で丁稚奉公的に働き、40代過ぎからやっと小さな花が咲く“遅咲きの桜”であった。年功序列・終身雇用を重視する人事制度は成長期には強みだったが、停滞期になると途端に弱点に急変した。バブル崩壊すると、企業は割高な給与となった中高年社員を雇う余裕を失った。リストラで早期退職募集を行うと、社員のモチベーションやロイヤリティは大きく低下する。この時期に、私は勤め先を早期退職し、その後、外資系 企業や政府系の外郭団体等で働いてきた。

 リーマンショック以降、少子高齢化で国内市場は縮小しており、日本のビジネス環境は急変している。韓国・中国企業の台頭とともに、花形産業だった電機業界は次第に競争力を失い、残念なことに今年春にはシャープまでもが台湾企業に買収されてしまった。

 

2. 求められている組織・人材とは

 これまでは“皆一緒に協力、団結力を重視”だったが、これからは“バラバラに、個人の専門性を最大限に活用”へ変わっている。今求められている組織・人材は、“同質性の高い何でも屋”ではなく“異質性の高いプロフェッショナル”である。プロフェッショナルは“他社に転職しても市場価値がある”ことが前提となる。

 グローバル化により日本を守る障壁(国境、通貨、言語、制度)は消失し、ボーダレス化して外国の資本・人材・商品が日本国中を自由自在に動き回っている。会社間の統廃合が活発化する。組織・人材は流動化し、かつ仕事は短納期化してくる。組織はライン型からプロジェクト型となり、即戦力のプロフェッショナルが求められる。

 

3. 人事制度の変革・見直しが必要

 日本企業は“年齢や勤続年数”を重視する“職能給制度”を採用している。一方、欧米の“職務給制度”は、多様な民族が混在する米国で生まれたドライな仕組みである。部門の職務を明確に定義して、社員の“貢献度やスキル”を基に報酬を支払う仕組みである。日本企業でプロフェッショナルを処遇するには職務給制度へのシフトが必要となる。

 

 ※「職能給」と「職務給」の違い:http://www.j-cast.com/kaisha/2009/07/23045916.html

 

 プロジェクト型組織では、業務要件が固まると、すぐタスクに分解され、タスクの実行に必要な経験・スキルを洗い出し、それに最適な人材がオープンに社内外から集められる。プロジェクトが完了したらメンバーは解散(失業)され、社内外の職場で新しい仕事を探すことになる。

 

4. 日本企業の強みを温存し、更に磨きをかける

 日本の職場では個人の業務経験・スキルだけでなく“コミュニケーション能力”がより重要である。コミュニケーション手段は、“言語35%、非言語65%”と言われている。非言語によるコミュニケーションは重要である。“言語は形式知”であり、“非言語は暗黙知”と言える。日本人は暗黙知活用の達人であり、“相手の気持ちを察する直観力”や“空気を読む能力”では世界一である。日本 人同士であれば、阿吽の呼吸で相当なコミュニケーションが出来る。この強みはそのまま温存し、更に磨きをかけるべきである。最近流行のデザイン志向(デザイナーが問題解決を実践する時に無意識に行っている思考と行動)とも密接な関連がある。

 但し、注意すべき点として、伝達力は“発信者の熱意”に大きく依存する。“熱意や情熱”がなければ相手に何も伝わらない。

 

5. IPA のiCDは有効

 話が寄り道するが、IT業界においても“仕事の標準化”の必要性が見直されている。IPAはタスクやスキルを体系化したコンセプトiCD(i コンピテンシ ディクショナリ)を発表している。これはグローバルビジネスにおける“仕事の段取り”にそのまま使える。特に“iCDの辞書”が充実しており、欧米の体系をも凌駕しているとさえ思えた。iCDはITCにとって大変有効な知識になると思う。

 

 ※iCDの詳細:https://www.ipa.go.jp/jinzai/hrd/i_competency_dictionary/icd.html

 

6. 欧米の基準・知識体系のつまみ食い

 ITCの研修では“COBITやPMBOK”が紹介されている。私はCOBITが苦手である。テキストを何回読んでもさっぱり分からない、ただただ眠たくなる。

 またISMS,CMMI,ITIL,EA・・などの欧米の基準・知識体系(以下、欧米式)が矢継ぎ早に輸入されている。欧米式を(十分な評価をせず無批判に)正しいと安直に考える人も多い。確かに欧米式は体系的で網羅性があり、プレゼンは恰好よい。全世界の企業で多数の導入実績があって、活用すれば効果が大きいことは間違いない。

 しかし、日本的な企業風土のままで欧米式を安易に導入するのは問題である。欧米式を理解するのには膨大な時間と金がかかる。意識改革や教育など社内体制の整備も大きな負担となる。そのまま適用するのではなく、自社のビジネスにとって必要な“おいしいとこだけ”を選び出して、つまみ食いする“したたかさ”が必要である。

 

7. 欧米の基準・知識体系を日本に帰化させる

 日本の長所と欧米の長所をいいとこどりする選別能力が求められる。具体的には“日本人の職人根性による愚直さ”と“日本的な暗黙知によるチームワーク”と“欧米流のプロフェッショナル活用”をミックスした「新しい日本型経営スタイル」が求められている。

 欧米文化の流入に際して、日本人は明治時代から「和魂洋才」の精神で困難をしぶとく克服してきた。日本人は、欧米の技術や文化を吸収する際に、そのまま受入れるのではなく日本のやり方に適合するように工夫を加えながら、欧米文化を日本文化に定着(帰化)させてきた。

 

8. グローバル化の遅れの原因

 日本に留学している中国人留学生は3か月も経つと、みんな流暢な日本語をペラペラ喋りだす。私は長年にわたりコツコツ中国語を学習したがなかなか上達しない。一般的に日本人は語学があまり得意ではない。日本企業がグローバル化で苦労しているのは、日本企業の仕事のやりかたが通用しなくなったためだけでなく、語学(異文化コミュニケーション)の問題も大きい。

 特に英語による日本発の情報発信力が弱い。仮に日本企業の社員が全て英語達者なら、優秀な社員が考えた“日本の経営ノウハウ”が世界のどの企業でも具現化され、その企業は立派なグローバル企業になるだろう。

 そのためには大学の授業を全て英語でやるくらいの大胆な教育改革が必要である。会社の公用語を英語とする企業も出てきているし、全講義を英語でやる大学もあるくらいだから決して不可能ではない。乱暴ではあるが、ITCの資格は英語が必須(TOEIC800点以上)としてもよい。

 

 独断と偏見で私の考えを述べてきたが、現在のグローバル化への対応はそれほど簡単な話ではない。日本企業のあるべき日本型経営スタイルの追求・模索は難しい。

 

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■執筆者プロフィール

 

坂口 幸雄

・富士通(中国・東南アジアで日系企業の情報システム構築の支援等)

・JAIMS日米経営科学研究所(米国ハワイ州、ホノルル)

・外資系企業

・海外職業訓練協会

・グローバル人材育成センター

・ITコーディネーター京都 会員

資格:ITC、PMP、PMS、CISA

趣味:愛犬との散歩、好きな歌手はテレサテン、海外旅行、お寺回り(四国八十八カ所遍路の旅および西国三十三カ所観音霊場巡り)

ホームページ:http://ysakaguchi.com/

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