㉘ 中国ビジネスでは中国語を学ぼう!

 1. はじめに

私の家族は戦後中国からの引揚者なので、私は中国には大変関心がある。私は仕事やプライベートで様々な都市を訪問した。中国文化は独特であり、癖があり個性がとても強いので「大変好き」だが、反面「大変嫌い」でもある・・・

さて、日本経済が長期に停滞しているのに対し、中国は1978年の鄧小平の改革開放以降は驚異的な高成長を続け、GDPでは2010年にはあっという間に日本を追い抜いてしまった。現在の日本の停滞した景況感の中で、経済成長を続ける中国市場に過大な期待をして日本企業は駐在員を送り出している。しかし“日本本社の期待”と “中国現地法人の現実”との間には“大きなギャップ”がある。そのため駐在員は日本本社と現地法人の板ばさみでストレスが溜まることになる。

そのストレスの原因を分析すると、意外にも「仕事」そのものからではなく、中国人の顧客や社員との「異文化コミュニケーション」からくるものの方がはるかに大きい。ここでは駐在員の「異文化コミュニケーション」について考えてみる。



2. 異文化コミュニケーションの重要性

「異文化コミュニケーション・ギャップ」はどのように認識されるのだろうか?「新版P2M標準ガイドブック」によれば、次のステップを踏むと言われている。
人々は異文化と接触し、まず表面的に現れている現象の相違に驚かされる。
驚きがショックとなる。異文化体験者が一様に体験する「カルチャーショック」である。
「カルチャーショック」の後、現状打開のため、人々の持つ価値観や通念とその文化的・社会的背景を捕える。
先方の文化の理解は、必ず自国が持つ文化・習慣との比較で行い、先方の文化・習慣の理解だけでなく、自国の文化・習慣が持つ意味、特徴を理解する。
異文化の土地に出かけた時は、先方の文化的背景をよく理解していないと、相手国の社会秩序を乱すことになりかねない。
以下に、中国ビジネスにおいて「異文化コミュニケーション・ギャップ」を具体的に考えてみる。

中国の宴会は”ビジネスの最前線”

中国ビジネスでは、人と仲良くなるには“宴会で食事をして酒を飲む”のが最良の方法である。しかしその時には日本人として“細心の注意”が必要である。信頼できる人間かどうか、「仕事の力量」だけでなく、「人間性や人格」まで“客観的・多面的”に、日本人は相手の中国人から判断されているのである。中国人からはいろんな手口や口実を使って酒を飲まそうと進めてくる。どれだけ酒を飲まされても気を許してはいけない、宴会がお開きになるまで崩れずにシャンとしていなければならない。宴会の場において酔っ払うような人間は信頼できないと判断される。日本のように“酒による無礼講”のような甘えは許されないのである。中国では宴会の席は“ビジネスの最前線”なのである。

その際にお互いの気持ちを伝えるためにどうしても必要となるのは「言葉(中国語会話)」である。やはり言葉が通じないと意思疎通ができないので仲良くなれない。まさに「異文化コミュニケーション」は「言葉」そのものである。つまり「異文化コミュニケーション」=「言葉」である。そのため駐在員は日常会話を事前に中国語を学んでおくこと、赴任後もさらにコツコツと学び続ける努力を続けることが大切である。

また「異文化コミュニケーション」では自国の習慣を、外国人の視点で第3者的に判断できることが求められる。自分では当たり前と思っている日頃の思考や行動が、日本社会の特有のものである事が多いので、現地で理解されなかったり、更には誤解やトラブルの種になるということは珍しくない。自国の文化や習慣の特殊性を知ることが、外国の異なった文化や習慣を認識するためにも大変重要である。


中国ではお祝いに「置時計」を送るのはタブーである。
中国語で、「時計を贈る」のは“送钟sòng zhong”、「葬式」も“送終sòng zhong”で同じ発音である。
語呂合わせではあるが、発音が同じなので「置時計」を送るのは“縁起が悪い”ことになる。

“偶数と奇数”の考え方も異なる。日本人は奇数が好きである。「七福、ラッキーセブン」は日本人が好きな言葉で、「4は死、9は苦」を連想するので嫌がられる。逆に中国では偶数が好きである。特に“8”は末広がりなので縁起を担ぐ中国人には人気がある。北京オリンピックは「2008年の8月8日午後8時8分」に開会された。また「8」と「発」は中国語では発音が似ている。そして【発】には、“金持ちになる”という意味がある。誰でもお金は大事であり、お金が嫌いな人はいない。しかし日本人は「お金が好きだ」という気持ちを直接的には口に出さない、「はしたない」と思われる。中国人は、「お金が好きだ」と気軽に直接的に口にする。中国でははしたないことではない。

3. 私には中国語会話の習得はむつかしい

私の中国語学習は遅々として進まない、困ったことに折角習った中国語を1週間するときれいに忘れてしまう。今となっては諦めの境地となっているが、団塊世代である私は脳味噌と体力の衰えが著しく、私の中国語学習には厚い壁となっている。世間では「鉄は熱いうちに打て」といわれる、中国語学習は若い時から始めるべきである。

1 ) まずは語学以前に「友人との人間関係」の構築から
「異文化コミュニケーション」=「言葉」であるが、言葉だけでなく「付合い上手」になる必要がある。中国では「老朋友」という言葉があるように「個人的な友人」としての人間関係の構築能力が重要である。「朋友」と「老朋友」は決定的な差がある。「朋友」はただの友達であるが、「老朋友」は“本当の信頼関係にある友達”である。この場合「老」 は、ネガティブな意味の「年寄り」ではなく、ポジティブな意味の「昔からの、信頼できる」 という意味である。一緒に食事をして、face to faceで互いに相性や人格を確認し、意気投合してはじめて「老朋友」になれる。



2 ) 中国語の発音記号「拼音(ピンイン)」の習得
私は中国語の検定試験を受けたことがあるが“ヒアリングテスト”で落とされた。原因は中国語の発音のヒアリングが苦手だったからである。“中国語のヒアリング”は本当にむつかしい。拼音(ピンイン)とはアルファベットで表記される中国語の発音記号である。困ったことに、英語の発音記号と同じのように発音しても全く通じない。中国語には日本語や英語の発音記号で表現できないむつかしい発音が多い。特に日本語にない独特の発音の「そり舌音」が苦手である。「zhi」「chi」「shi」「ri」を日本語のつもりで「ヂー」「チー」「シー」「リー」と発音しても相手の中国人には全く通じない。

3 ) 四声(=イントネーション)が違うと意味が全く異なる。
四声とは中国語のイントネーションである。 「はし(橋と箸)」は同じイントネーションで発音しても、日本語では文脈から無意識にその違いを判断できる。しかし中国語では同じ発音でも四声(=イントネーション)を間違うと意味が全く異なってくる。中国語の四声は私にはなかなか聞き分けられない。同じ発音のyuでも「yú 」と2声で発音すると「魚 」になり、「yǔ」と3声で発音すると「雨」になるという厄介な言葉である。
私の名前「坂口幸雄」を中国語でバンコウシンション(ban kou xing xiong)とイントネーション無しで平らに発音しても相手には全く通じない。中国語の「四声」である。「bǎn kǒu xìng xióng」と正しく四声で発音しないと通じない。中国では、以下の短文がたいへん有名である。
日本語:お母さんが馬に乗る。馬が遅くて、お母さんは馬を罵る。
中国語:妈妈骑马,马慢,妈妈骂马。
ピンインmā mā qí mǎ、mǎ màn、mā mā mà mǎ

4 ) 日本語と中国語の語彙は「似てそうで、似ていない」ので、紛らわしい
日本語・中国語間で多く点で共通しているが、それだけに大きな落とし穴もある。
中国語は略式の簡体字を使用する。大胆に簡略化されており日本人には読みづらい。
丰田 fēngtián⇒豊田 (はじめて見ると簡体字の豊田は読めない)
中华 zhōnghuá⇒中華 (はじめて見ると簡体字の中華は読めない)
欢迎光临  huānyíngguānglín⇒歓迎光臨



同じ漢字でも意味が異なる。そのまま解釈すると,誤解を招く語彙も多い。
手紙 shǒuzhǐ⇒日本語 手紙、 中国語 トイレットペーパー
手紙を下さいと言うとトイレットペーパーを下さいという意味になる
勉强 miǎnqiǎng⇒日本語 学習、 中国語 無理強いする
価格交渉で勉強と言うと、とても無理と言う意味になる
愛人  ài rén⇒日本語 恋人、 中国語 妻、家内
汽车  qìchē⇒日本語 汽車、 中国語 自動車
饭店  fàndiàn⇒日本語 飲食店、中国語 ホテル
良く使用する日常単語であるが、漢字が異なるものが多い。右側が日本語、左側が中国語。
飲む⇒喝  he、
見る⇒看  kan、  ( “見”は中国語では、“会う”という意味)
聞く⇒聴  ting  ( “聞”は中国語では、“においを嗅ぐ”という意味)
歩く⇒走  zou、  ( “走”は中国語では、“歩く”という意味)
食べる⇒吃  chi,
安心する⇒放心  fàngxīn
気をつける⇒小心  xiǎoxīn、

4. 最後に・・我觉得本人应该多学一些中文!

駐在員の現地生活への適用については派遣前の研修プログラムの受講が必須である。「海外職業訓練協会OVTA」や「グローバル人材育成センター」に講習プログラムがある。私は語学研修(中国語)は4日間コースを数回受けたことがある。これは効果的でお勧めである。

現在は「尖閣諸島問題」により日中間の政治情勢が大変険悪な状況となっている。双方ともにお互いの主張を繰り返すだけで解決の糸口がサッパリ見えてこない。この様な時には、「建前」の交渉は両政府に任せて、私達は “草の根”の民間外交による「本音」の友好関係を築く事が必要となる。その時の留意点は日本人と中国人の“共通点”よりも“相違点”を正しく認識することである。中国人は日本人と同じような“容姿や顔立ち”でかつ同じ漢字文化圏なので、当然価値観も思考方法も日本人と同じだと、うっかり“勘違い”してしまう。そこに大きな落とし穴がある。“単一民族国家で集団主義”の日本人は「個人よりもグループの利益を優先」させる。“多民族国で個人主義”の中国人は「グループよりも家族の利益を優先」させる。そのために価値観も思考方法も大きく異なってくる。

“草の根”の民間外交では、「異文化コミュニケーション」が重要となる。そして「異文化コミュニケーション」=「言葉」である。現在はもはや‘日本と中国だけの2国間の関係’だけではない、すでに‘地球人同士のグローバルな交流’が始まっている。安部首相はTPP参加の意向を表明しているが、果たしてTPP発効後の日本はどのようになるのだろうか?経済的グローバル化は進展し、文化的グローバル化もさらに進展するだろう。国境などの機能・制約ももだんだんと変化してくる。多国間での異文化コミュニケーション能力が重要になる。こうした動きの中では情報発信源として強力な発言する人が主導権を握ることになる。



私が懸念するのは、“中国人は日本語の学習に積極的である”が、“日本人は中国語の学習に熱意と努力が足りない”。日本人と中国人の意思疎通はいつも日本語である。今までは“日本”が顧客の立場であったが、今後は“中国”の方が顧客の立場になってくるからである。日本人と中国人の個人の関係作りのために・・・・
日本語:  日本人は中国語をもっと学ぶべきであると思う。
中国語:  我  觉得  日本人  应该  多学  一些  中文
ピンイン:  wǒ jiàode  rìběnrén yīng gāi duōxué yīxiē zhōngwén

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