⑦ 五木寛之の林住期から見たシニアの生き方

1.はじめに

 最近の私は持病のリューマチが再発し、入院したりして気力・体力ともに衰えを隠せない。そのためにリハビリと体力増進のために真面目に家の近くを毎日30分のウォーキングをしている。また人の名前や単語がなかなか出てこない、頭のボケも進行してきているようだ。

このような折、阪急電車の梅田駅の近くの古本屋で五木寛之の「林住期」という単行本を見つけて購入した。
私はインドに観光旅行に行ったり、四国霊場88箇所遍路の旅をしていたので「インド人独特の人生観」に私の心がピンと反応してきた。「林住期」というタイトルは聞き慣れないものだったが、読んでみると「人生設計・生き甲斐」を鋭く分析している。著者の五木寛之は、私の「安易で世俗的な人生観」にレッドカードを突きつけてきた。

2. インドの四住期について


 古代インドのマヌ法典によれば、インド人の人生は4期間に分けられるそうだ。この
四住期では第3番目の「林住期」が人生の最も充実したハイライトである。

2.1「学生期(がくしょうき)」
 師について心身を鍛え、学習する時期。
 まだ一人前とは見なされていない。
2.2「家住期(かじゅうき)」
 就職し、結婚し、家庭を築き、子供を育てる時期。
 世俗的な利益(金、地位・・)を求める。
 一家の大黒柱となって家族や会社のために働く。
 働き盛りで、体力・気力ともに充実している。
2.3「林住期(りんじゅうき)」
 生き甲斐を求めて、真に人間らしく生きる時期。
 世俗的な利益を離れて、解脱(世俗の迷いから脱却)を目指す。
2.4「遊行期(ゆぎょうき)」
 家を捨て、死に場所を求める放浪と祈りの余生の時期。
 四国 88箇所参りでの行き倒れ等。

 私が懸念しているのは、“世俗的な利益”を求める「家住期」と“解脱”を目指す「林住期」の間には人生観における大きなギャップがあり、生き方の根本的な見直しが必要な急角度の“人生のヘアピンカーブ”であることである。「車のギアチェンジ」は簡単だが、「人生のギアチェンジ」ができる人は少ない。

「家住期」は家族を愛し、金と名誉など世間的な欲望を求める時期であり、次の「林住期」は家族から離れて孤独になって、自分本来の人生を見つめ直す時期である。


そのために「家住期」と「林住期」は全く違う生き方になる。
殆どの人は「家住期」のまま死んで、本当の人生を知らないままあの世に行ってしまっている。

現在の日本の快適な日常生活の考え方に慣れてしまうと、“解脱を目指す”と言う大胆な発想はなかなか浮かんでこない。ぬるま湯(快適で便利な世俗的生活)に慣れ親しんでいる私には“インドの禁欲的な生き方“は、実践できそうもない。

3. 仏教の教え・・・“生老病死、苦、無常”
 私の家族は終戦後中国から日本に引き揚げてきた。私は5人兄弟の一番下の5
番目の子供として福岡で生まれた。終戦直後の10年間は、日本はまだ混乱期で
もあり貧しく、衣食住ともに不足していた。

 しかし1955年頃より高度経済成長期に突入すると、日本経済は右肩上がりで成
長していく。子供の頃の記憶では、ご飯は「かまど」に薪(まき)を入れて炊い
ていた。これが「電気炊飯器」となり、ご飯の準備は格段に便利になった。そし
て三種の神器(電気洗濯機、電気冷蔵庫、テレビ)も普及して、日常生活は豊か
になっていった。文化面では米国進駐軍と一緒に「ハリウッド映画」の陽気で底
抜けに明るい米国文化が浸透してきた。若い時の私は楽観的に、人生は必ず「ハ
ッピーエンド」で終わるものと錯覚していた。

 私のビジネスにおける人生ゲームは、1991年のバブル崩壊までは右肩上がりで
順調であった。いつの間にか好景気は永遠に続くと勘違いしてくる。リスクを無
視して“それ行けドンドン”でビジネスを推進してきた。今から考えると、バブ
ル景気はまさしく泡のように実体のない繁栄であった。その後バブルが崩壊し、
私はリストラや早期退社といった苦い経験をすることになる。

 仏教は“極めて厳しい教え”を提示している。
・生老病死からは逃れられない
・人生は苦である
・人生は無常である

日常生活から「悲しい事、空しい事、嫌な事」には背を向けて、「楽しいこと」
ばかりに目を向けて人生を生きていく事は出来ない。

4.「林住期」には気持ちの切り替えが必要
 「家住期」から「林住期」への人生の“へアピンカーブ”を曲がる時に、自分
の価値観を大きく変換する「意識改革」ができるか否かが人生の別れ道となる。
体力・気力・能力・容姿が大きく衰える黄昏(たそがれ)時の「林住期」になっ
ても、若い時と同様な「溌剌とした生き方」に執着していると「惨めな生き方」
になると五木寛之は警告している。お釈迦様の教えに逆らって、どんな若返りの
アンチエイジングを取入れたとしても、人生の時計の針を逆回転することはでき
ない。それでは意識改革を可能にするための「秘伝の奥義」は無いのだろうか?


★愛犬ラッキーと昔写真を一緒に取った。犬種はパピヨン。




 「秘伝の奥義」は愛犬ラッキー(パピヨン、15歳の老犬)が教えてくれる。
愛犬ラッキーは私の「人生の師匠」である。何故なら欲の深い人間と異なり、犬は雑念を捨てて、「頭を空っぽ」にできる。執着を捨てることにおいては犬は人間よりも高等動物である。もし愛犬ラッキーが人間に生まれていれば、相当立派な修行僧になれただろう。

★下記にラッキーの一生を添付、だんだん年を取って17歳で死んでいった。





4.1 「他人と自分を比較しない」
 愛犬ラッキーは他人を羨ましがったりひがんだりはしない。「他人は他人、
自分は自分」であると割り切っている。

4.2「現在のみを考えて、生きる」
 愛犬ラッキーは「過去」の出来事や失敗を悔やんだりしない、また「将来」の
ことで余計な心配をしない。「今」を懸命に生きるだけである。
人間もこれさえ出来れば「悩みやストレス」はずいぶんと軽くなるはずである。

5. アドバイス・・「家住期」における事前準備が必要
 「家住期」は家族のためにパン(世俗的な利益)を獲得する時期である。しか
し人間はパンだけで生きるものでもない。ますます厳しくなる社会環境の中で
「現役世代」にとっての人生のハイライト(林住期)への準備はきわめて重要で
ある。ただし、その人生設計は個人毎にバラツキがあり一様ではない。人それぞ
れの「過去の経緯、人生観、宗教、健康状態、資金、家族関係・・等」により大
きく異なる。

 しっかりした「家住期の土台」が無ければ、「林住期」はすぐに崩れてしまい
砂上の楼閣となる。「家住期」において入念な事前準備をしておく必要がある。
具体的には「自分自身と家族の健康管理、資金管理、家族関係、子供の自立の促
進・・」など幅広く整理整頓・始末しておくべきことが多い。

 最後に、自分自身の人生設計の“前提条件や制約条件”を十分精査して、「林
住期」における価値観・生き甲斐を“自己責任”で築いていくことになるが、
“自分一人で”地道に積み上げていくしかない。

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■執筆者プロフィール

趣味:犬の散歩、テレサテンの歌を聴くこと、海外旅行、
お寺回り 
(四国八十八カ所遍路および西国三十三カ所観音霊場巡り)
ホームページ:http://ysakaguchi.com/






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