⑮  林住期におけるシニアの人生設計の見直し


 

 私はインドに観光旅行に行ったり、四国88箇所巡りをしているので、「インド人独特の人生観」には大変興味がある。小説家五木寛之の「林住期」を先月に再読したが、困ったことにますます人生の迷路にはまり込んでくる。

 

 古代インドのマヌ法典では人生を下記の四住期(4つのフェーズ)に分けて、インド人独特の人生観がストイックな視点で表現されている。この四住期の中では第3番目の「林住期」が人生最大のクライマックスとされている。私は丁度そのクライマックスにいる。

 

A 「学生期」

  師について心身を鍛え学習する時期で、まだ一人前とは見なされない。

B 「家住期」

  家庭を築き子供を育てる時期で、世俗的な利益(金、地位)を求める。大黒柱となって家族や会社のために金を稼ぐ働き盛りである。

C 「林住期」

  人生最大のクライマックスで、真に人間らしく生きる大事な時期だ。世俗的な利益を離れて、解脱(世俗の迷いから脱却)を目指す。

D 「遊行期」

  お釈迦様の様に家や家族を捨て、死に場所を求める放浪と祈りの 余生の時期。世俗的な人生観を持つ俗人には無理な生き方である、 

 

 私達日本人の生き方で留意すべき点は、Bの「世俗的な利益を求める家住期」 とCの「解脱を目指す林住期」の間には大きな変節点があることである。この人生の “ヘアピンカーブ”のギアチェンジが難しい。俗人的生活に慣れた日本人は林住期を迎えて、“解脱を目指す”という慣れないストイックな生活へギアチェンジし難い。特にぬるま湯(快適で便利な世俗的生活)を求め、その生活にすっかり慣れ親しんできた私にとって“インドの禁欲的な生き方“は理想として憧れはするが、実践はとてもできそうもない。

 

 ここでは“働き盛り”の「家住期」と“人生のクライマックス”である「林住期」の2つの視点からの人生設計を考えてみることにする。

 

(1)働き盛りの「家住期」は既に過ぎ去った。

 私はITべンダーに長年勤めていた。1991年のバブル崩壊まではサラリーマン生活を順調に満喫していた。しかし会社の業績が悪化し、リストラにより早期退職を余儀なくされた。退職後は外資系企業や政府系外郭団体で働いた。日本企業、外資系企業、政府系外郭団体の順に勤めて、それぞれ企業文化や人間関係の構築手法が全く異なることに驚いた。企業文化が異なる慣れない職場で働くことは、新鮮ではあるがストレスも大きかった。振り返ると、「低成長時代のリスクを考慮した身の振り方」、「プロフェッショナルとしての自覚」と「エンプロイアビリティの確立」に対する取り組みが不十分で適切でなかったと自戒している。いつの間にか「気配りと根回しが上手なだけの便利屋さん」になってしまっていた。

 

 日本の企業では、何でも屋の「ゼネラリスト」が重宝され、専門的な知識や特技を持った「プロフェッショナル」の活躍の場が少ない。バブル崩壊以降は企業間の統廃合やリストラや廃業などが活発化している。組織や人材は流動化し、ビジネススピードが急に速くなった。それに伴い仕事は複雑化・短納期化するので、組織はライン型からプロジェクト型になり、そのプロジェクトを推進できる「即戦力のプロフェッショナル」が求められる。

 

 これからのグローバルビジネスでは、日本の伝統的企業文化である「年功序列、終身雇用、企業内組合」や「職能給制度」に安易に安住することは許されない。米国では日本と違い、会社に必要な人材ならば「定年制度」がない。反対に「employment-at-will 法」という制度があり、いつでも解雇できる仕組みになっている。

 

(2)私は人生のクライマックスである 「林住期」にある

  吉田兼好法師は徒然草で、「死は前からやってくるのではなく、後ろから突然迫ってくる。ヒトは誰でも死ぬことはわかっているが、自分にはそんなに直ぐにはやってこないと思っている。しかし思いもよらない時に突然やってくるものだ」と人生を例えている。

 

 日本人の平均寿命は順調に延びてきており、「人生100歳」の時代も目の前に近づいている。しかし平均寿命が単に量的に延びただけで実質的な生活の質が伴っていなければ、薄っぺらな言葉だけの長寿社会であり、真に幸福な社会ではない。

 

 高齢者人口の伸びはすこぶる順調である。男性の平均寿命は1947年では50歳だが、2016年には81歳である。そして、高齢者に対する社会保障費「年金・医療・福祉」は、ひっ迫している。社会保障費は1970年では3兆5000億円だが、2016年には120兆円となった。

 

 政府は社会保障費の伸びの圧縮に懸命になっているが、社会保障制度を維持するための前提条件が「既に崩壊している」のは明白である。パンドラの箱を開けたくない国会議員は根本的対策を取らずに傍観しているだけである。社会保障制度が破綻したら、全国民の人生設計は根本から崩れてしまう。国民一人一人は政府に頼らず、自己防衛のために自分自身で何らかの対策を練る必要があるが、なかなか名案は浮かばない。

 

 このように周りは非常に厳しい生活環境であるが、林住期は「自分自身のために生きる人生のクライマックス」である。真に人間らしく生きる大事な終盤の時期だ。「人はパンのみに生きるにあらず」でもある。世俗的な利益を離れて、解脱(世俗の迷いから脱却)も少しくらい目指したい。

 

(3)林住期の人生設計のために必要な前提条件は? 

  第1に体の健康、第2に心の健康、第3に金(年金)である。「体の健康」については長患いをしたくない。PPK(ピンピンコロリ)を望みたい。「心の健康」も肝心である。頭がボケると何事も上手く行かない。「お金」がないと周りに迷惑をかける。

 

 私は林住期の理解を深めるために、最近下記の「孤独・老年」を題材にした本を読んでいるが、自分の心に迷いが多すぎるためか、なかなか人生のクライマックスにたどり着いた気分にはなれない。

 

・五木寛之 : 孤独のすすめ、孤独の力

・曽野 綾子 : 人間の分際、老いの才覚、老いの僥倖 

・下重暁子 :  極上の孤独、最後はひとり、家族という病

 

 私は「自分の老後は、子供や孫の成長を見ながら、のんびりと安定した生活を送りたい」と内心望んでいる。 しかし人生は「愛別離苦」である。「思い通りに上手く行かないこと」、「どうしようもないこと」、「諦めないといけないこと」がたくさんある。

 

参考資料 
私のインド旅行(タージーマハール、ニューデリー・オールドデリー)

     http://ysakaguchi.com/blog-category/77-taj-mahal/

     http://ysakaguchi.com/blog-category/new-delhi/

 

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■執筆者プロフィール

 

坂口 幸雄

ITベンダ、 JAIMS(日米経営科学研究所、米国ハワイ州)、外資系企業、海外職業訓練協会、グローバル人材育成センター、
資格 PMP,CISA

趣味:犬の散歩、テレサテンの歌を聴くこと、海外旅行、お寺回り(四国八十八カ所遍路および西国三十三カ所霊場巡り) 


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