⑬ 中小製造業の海外拠点経営の勘所


1. はじめに

 最近はグローバル化の影響で、今まで海外進出と無縁と思われた企業でもグローバルビジネスや海外進出を検討している。日本企業が海外拠点を設立する場合は、慎重な準備が必要なのは当然だが、1991年のバブル崩壊以降は社内体制の質的な改革が求められている。バブル崩壊以前は日本企業の経営資源(技術、資金・資本、人材等)は中国・アジアの現地企業を凌駕していた。しかし、バブル崩壊以降はその優位性が逆転してきている。そして海外拠点では、マーケティング機能が重視され、現地企業の資本を受入れ、外国人の幹部社員が多数登用されている。

 そのため「内なるグローバル化」つまり「日本的経営のままの人事や組織の見直し」が求められている。従来の日本的経営のやり方をそのまま海外拠点に押し込んでも抵抗が大きく定着しない。「内なるグローバル化」で外国人社員が納得できる人事や組織とすることが必要になってきている。

 

2. 日本の国際競争力は衰退気味

 安倍首相のアベノミクスは現在、踊り場に直面している。有名なスイスIMD国際経営開発研究所の調査によると、1990年のバブル崩壊までは、日本の国際競争力はダントツで第1位だったが、バブル崩壊以降は第25位前後まで転落し、現在でも第26位前後を低迷している。日本経済が「デフレ」から脱出するためにも、経済活性化のための有効な施策の実施が望まれており、中小企業庁は「ミラサポ」で中小企業の国際化を積極的に支援している。

 

3. 競争力のある中小企業の海外展開

 少子高齢化により日本の人口は減少しており、日本の市場規模は縮小している。更に近年シャープや東芝が外国資本を受け入れて再建を目指す等、大手製造業の業績は停滞気味である。

 一方、日本の中小企業の企業数は全体の99.7%にも上り、その中には独自の技術・ノウハウで海外でも通用する中小企業は多い。このような企業に海外で活躍してもらい、日本経済を再び活性化してほしい。

 

4. 海外進出した中小企業が失敗するケース

 リーマンショック以降は、海外拠点では現地企業の資本を受入れ、外国人社員を多数採用している。そのために日本的経営をそのまま海外拠点に持ち込むと、外国人の役員や幹部社員とのコミュニケーションに不具合や摩擦が生じる。海外拠点での日本式経営スタイルの適用はテーラリングが必要である。日本式経営の強みであった「職能給制度、企業内組合、終身雇用制、年功序列制…」はグローバルビジネスでは逆に弱みや障害になっている。

 

5. 中小企業が内なるグローバル化を推進するための留意点

・日本的な仕事のやり方と欧米的な仕事のやり方の違いを理解する。欧米では行間を読むことはない。

 言葉や文章で明確に自分の意思を伝えてその結果までフォローして確認すべきである。

・日本人社員はゼネラリストしての調整役ではなく、プロフェッショナル人材としての研鑽に励み、現地社員から尊敬される日本人になるべく努力する。

・グローバルスタンダードとなっている「仕事の進め方・段取り方法」を採用する。「限られた人材」で対応し、業務の納期・コスト・品質を遵守するには「定常業務」を「プロジェクト」として対応する必要が生じている。「仕事の進め方・段取り方法」としてISO21500等「プロジェクトマネジメント」の国際標準の採用が有効である。

・日本には稟議制度がある。稟議制度は「ステークホルダー全員が責任者であるが、誰も責任をとらない仕組みである」
(EVERYONE IS RESPONSIBLE,
 BUT NO ONE IS RESPONSIBLE FOR THE 
DECISION)
欧米には日本の稟議制度の様な仕組みはない。日本企業では計画と実行は別々に取り組
むことが多いが、欧米人は計画と実行は不可分と考え、同一人物であるプロジェクトマネジャーが責任者となって推進する。

・日本人リーダーの意思決定は、欧米企業の様にロジカルではなく、企業文化やその場の雰囲気に影響される。プロセスオーナーという意識が低い。職務文書は未整備で、その判断基準は曖昧でその企業に長期間勤務しないと理解できないことが多い。日本のリーダーは意思決定に時間がかかり、コミュニケーションも日本人だけで集まって日本語でコソコソ話をしている。人事面では現地社員の昇進に消極的である。日本人リーダーの意識改革が必要である。

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■執筆者プロフィール

坂口 幸雄

ITベンダ(東南アジアや中国でのマーケティング、日系企業の情報システム構築の支援)、

JAIMS(日米経営科学研究所、米国ハワイ州)、外資系企業、海外職業訓練協会(キャリアコンサルティング)、グローバル人材育成センターのアドバイザー、ITC京都 会員

趣味:犬の散歩、テレサテンの歌を聴くこと、海外旅行、お寺回り(四国八十八カ所遍路の旅および西国三十三カ所観音霊場巡り)

ホームページ:http://ysakaguchi.com/

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